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「残るのは真実か 公文書か」 石原昌家

変質する沖縄戦 「残るのは真実か 公文書か」石原昌家/サンデー版1・8面

 沖縄戦を生きのびた多くの住民は、奇跡の連続の体験を「針の穴をくぐってきた」と表現していますしかし戦後、日本政府は住民の戦争被害の体験を、「真実」と異なる体験として記録して、現在に至っています。
 例えば、激戦場で「(避難していた壕から)日本軍に追い出されて死傷した」と多くの住民がありのままの体験を証言しています。しかし、日本軍の命令により、「壕の提供」をして死んだということにすると、政府から戦闘に協力した「戦闘参加者」として認定されます。そして、兵士同様に国のために死んだものとして、遺族に「経済的援助」として遺族年金、弔慰金などを支給し、「精神的な癒やし」として靖国神社合祀(ごうし)が行われました。それは軍人、軍属などを対象とした「戦傷病者戦没者遺族等援護法」という法律を、日本政府が沖縄戦の被害住民にも適用していったことによるものでした。
 住民への拡大適用にあたり、政府は住民の沖縄戦体験を「弾薬輸送」「集団自決」「食糧供出」など20ケースの「戦闘参加者(概況表)」にまとめました。そして乳幼児から年寄りにいたる被害住民が、その20ケースのどれかにあてはまると、「戦闘参加者」として認定する仕組みをつくりました。その結果、戦争体験の「書き換え」「捏造(ねつぞう)」を招く事態となったのです。
 そう遠くない将来、沖縄戦の生存者がいなくなる時が訪れるでしょう。そして住民が積極的に戦闘協力したという、膨大な公文書が残ることになります。そこには住民の押印もあります。やがて日本軍に住民が殺害されたり、死に追い込まれたりしたという沖縄戦の「真実」はなかったことになりかねません。教科書の記述をとおして、沖縄戦で住民が勇敢に戦ったと強調される今、沖縄住民が日本国民の「手本」として使われる懸念さえ現実のものになってきています。 (いしはら・まさいえ/沖縄国際大学名誉教授)

「カウンターデモクラシー」考 山本達也氏

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こちら情報部「カウンターデモクラシー」考 清泉女子大教授 山本達也氏/24・25面

 財務省の公文書改ざん問題などの全容解明を求める国民の声をよそに、閣僚や官僚は国会で、野党の質問にまともに答えない。他方、地検も改ざんを指示した元幹部らを不起訴とした。代議制、捜査機関にとどまらず、不正を正すためのあらゆる民主主義的な制度が機能不全に陥ったかのようだ。国民の政治不信も頂点に達している今、「不信」を通じて民主主義を補完しようという「カウンターデモクラシー」が世界的に注目を集めている。日本は健全な民主主義を取り戻せるのか。この思想に詳しい清泉女子大学の山本達也教授に聞いた。 (白名正和)

民主主義を取り戻すには? 
 「日本が民主主義国であることは間違いない。問題は中身が機能しているかどうか。民主主義は日本も含めて世界的に、後退局面に差しかかっている可能性がある」。山本氏は民主主義の現状をこう分析する。
 非民主主義の状態から民主主義に移行し、定着した後、民主主義を維持したまま質的な変容を遂げる―。これが政治学の想定だったという。
 しかし現在は、「民主主義が定着した後に脱定着、後退というベクトルに進んでいるかに見える」。事実、米国では非民主的な言動や経済政策を是とするトランプ大統領が就任。イタリアでは今月、ポピュリズム大衆迎合)的な2政党による連立政権が発足した。
 先進国では若い世代ほど民主主義に価値をおかず、生活できるなら民主主義じゃなくても良いと考えている、との調査結果もあるという。「想定外の動きを、多くの政治学者が驚きを持って捉えている」
 日本も例外ではない。今の安倍政権は連続在職日数が歴代3位で、戦後最長も現実味を帯びる。だが、政策の中核アベノミクスは多数の問題点が指摘されている通り、とても持続可能性があるとは思えず、出口戦略も見えない。さらに森友問題も、関係者の甘い処分にとどまった。山本氏は財務省の文書改ざんに目をつぶったら民主主義のたがが外れる」と警告する。
 しかし、安倍政権は民主主義的プロセスによって退場させられるどころか、一定の支持を保っている。共同通信社が5月に実施した世論調査では、内閣支持率は38.9%で前月から1.9ポイント回復した。支持の理由は「ほかに適当な人がいない」が最多の42%だ。
 問題山積の政府が支持されるのはなぜか。山本氏は「日本のシステムの破綻(はたん)を直視せず先延ばししたい、国民の願望がある」と指摘する。

問題山積  政府なぜ支持 「破綻先送りの願望」
 現実は、年金や社会保障など、国民の生活を支えてきた制度は少子高齢化人口減社会の中で危機に瀕(ひん)している。人生の展望が描きにくい非正規労働も拡大しつつある。「国民はそのことに気づいているが、認めたくないから、先延ばししてくれる人を選ぶ。政府が抱える諸問題はもちろんおかしいけど、それ以上に破綻を先送りしたい。ほかの首相を選んで現実を直視するよりも、消去法で現政権を消極的に支持している」
 また今、民主主義が機能不全となる背景には、地球上の限られた資源で、持続的な経済成長が限界を迎えていることも大きいという。山本氏が取り組む「縮小社会」という問題だ。
 「高度経済成長期のように、右肩上がりに伸びる社会で民主主義を運用するのは楽。分配するパイはどんどん多くなるからその分配加減を見れば良かった」
 現在のように縮小していく社会では、分配の決定は極めて困難になる。「そもそも近代以降、右肩下がりの世界で民主主義を運用した社会は、歴史を見ても一度もない。それが今、僕らの世界で起きている」
 <略>


 やまもと・たつや/1975年生まれ。慶応大大学院政策・メディア研究科後期博士課程を修了。清泉女子大教授。専門は政治学NPO法人「もったいない学会」の理事も務める。著書に「革命と騒乱のエジプト」「暮らしと世界のリデザイン」、共著に「日本政治とカウンター・デモクラシー」など。

言わねばならないこと110 斎藤貴男さん

言わねばならないこと/「戦える国」に変質 斎藤貴男さん/2面

奪われた自由 戦前想像して
 「共課罪」法(改正組織犯罪処罰法)の成立から1年。権力が市民を監視し、民主主義の絶対条件である「思想信条の自由」を奪う内容に危機を感じ、廃止を訴え続けてきた。その自由を安倍政権に奪われてしまったことに、改めて怒りと屈辱を感じている。
 共謀罪は、テロの未然防止の名目で一般市民がテロリストか否かを見分けるところから捜査を始める。性悪説に立ち、市民を見張るべき対象に位置づけている。本来、見張るべき対象は権力側ではないのか。
 この1年間に財務省の文書改ざんや自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)などの問題が次々と明らかになった。権力こそ暴走したら恐ろしい。「権力は判断を誤らない」という考えはもはや信用できない。
 こういう話をすると「被害者意識ばかり膨らませている」と批判を受ける。確かに共謀罪の疑いで逮捕された人はまだいない。でもそれは、単に権力が逮捕しなかったということにすぎない。恣意(しい)的な判断で逮捕できるという現状は変わらず、むしろ社会は監視の度合いを強める方向に向かっている。
 共謀罪法が成立した前年には通信傍受法が改正され、警察が会話を盗聴できる対象犯罪が広がった。今月から他人の罪を密告すれば自分の罪を軽くできる司法取引制度も始まっている。
 全ての動きは連動している。この国の「自由度」は極端に狭まっている。
 気掛かりなのは、社会が現状に無関心であるように感じられること。戦争がない状態が当たり前の時代に育った人が大半を占めているから仕方ないかもしれない。だが、思想信条の自由が奪われた戦前を思い起こしてほしい。無理にでも想像する力を働かせないと、歴史は必ず繰り返される。

 さいとう・たかお/フリージャーナリスト 1958年、東京生まれ。早稲田大卒。日本工業新聞週刊文春などの記者を経てフリーに。2013年から放送倫理・番組向上機構BPO放送倫理検証委員会委員。主な著書に「戦争経済大国」など。

北、完全非核化署名 初の首脳会談 米「体制保証」

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北、完全非核化署名 初の首脳会談 米「体制保証」/1面

共同声明 具体策示されず
 【シンガポール=石川智規】トランプ米大統領北朝鮮金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、シンガポールで史上初の米朝首脳会談を開いた。会談終了後、両首脳は共同声明に署名し、朝鮮半島の「完全な非核化」と北朝鮮の「体制保証」に取り組むことを明記した。ただ「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」との文言は盛り込まれず、検証方法など具体策は先送りされた。またトランプ氏は会談後の記者会見で、日本人拉致問題について「もちろん提起した」と述べたが、具体的な内容には言及しなかった。
 <本文、略>

拙速の「歴史的会談」/外信部長・久留信一
 北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返していた1年前、米朝首脳会談を実現できると考える人は皆無だったに違いない。トランプ米大統領金正恩朝鮮労働党委員長は12日、朝鮮半島の完全非核化と北朝鮮の「体制保証」を約束する共同声明に署名。「予測不能」な両首脳の存在が実現させた歴史的会談であると言えるが、最優先されたのは首脳同士の信頼構築だ。共同声明には具体策がなく、実現は今後の課題となった。
 歴代の米大統領は、北朝鮮核兵器を放棄させ、朝鮮半島を非核化することに失敗してきた。米軍の圧倒的な軍事力を国家存続の脅威と考える北朝鮮が、生き残りをかけて核開発に固執してきたためだ。
 米朝間の相互不信は根強く、実務を担う官僚に首脳会談を実現させることは不可能だっただろう。2度のシリア攻撃で強硬姿勢を見せ、経済制裁解除もちらつかせるなどのトランプ流駆け引きが、核で世界を威嚇しようとする正恩氏に「恐怖心」と「計算」を呼び起こさせたに違いない。
 会談約3時間半前。トランプ氏は「事務方の事前準備はうまくいった。でも、そんなことは関係ない。本当の取引はこれからだ」とツイート。会談成功に自信を見せたが、朝鮮半島の完全非核化では4月の南北首脳会談で合意した「板門店(バンムンジョム)宣言」を超える具体策は盛り込めず会談を急ぐあまりの拙速感はぬぐえなかった。
 トランプ氏は「金委員長は(過去に米国大統領との関係に)『ここまで深く入り込んだことはなかった』と言ってくれた」と、約束を担保する材料として首脳同士の信頼関係を挙げた。
 だが、ロシア疑惑を抱えながら11月の中間選挙を控えるトランプ氏が、歴史的会談の実現を急いだ側面は否定できない。米軍の軍事攻撃の可能性に追い詰められた正恩氏が、時間稼ぎのために首脳会談という賭けに出た可能性も濃厚だ。
 完全非核化の実現には、目標時期の設定や保有する核兵器の情報開示、国際機関による査察受け入れなどが最低条件。今後は、声明を空文化させないための実務協議の進展を、国際社会が強力に後押ししていくことが求められるだろう。

袴田さん「うそだ」 東京高裁再審開始認めず

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袴田さん「うそだ」  東京高裁再審開始認めず/29面

 一度は開きかけた再審への扉は閉ざされた。東京高裁が11日、袴田巌(はかまだいわお)さん(82)の再審を認めない決定をすると、裁判所前に集まった支援者らから「冤罪(えんざい)だ」「なんで」などと怒りの声が上がった。半世紀にわたって闘ってきた姉の秀子さん(85)は「残念」とする一方で、袴田さんが再収監を免れほっとした様子。秀子さんと暮らす浜松市で決定内容を知らされた袴田さんは「そんなのうそなんだよ」と語った。=1面参照

闘い半世紀 姉「残念」
 「残念でございます」。袴田さんの姉秀子さんは再審を取り消す決定が出た直後の午後1時半すぎ、東京高裁前でマイクを握り、声を震わせた。
 弁護士らが「不当決定」と記した旗を掲げると、数十人の支持者からは驚きと怒りが入り交じった反応が広がった。
 袴田さんは11日、東京へは行かず、浜松市内でテレビを見たり、寺を訪れたりして普段通りの表情で過ごした。午後2時ごろ、支援者から東京高裁の決定を知らされても顔色一つ変えず、「あ―、そ―う」と話した。報道陣が受け止めを聞くと、「そんなのうそなんだよ」「事件がねえんだから」と突っぱねるように語った。
 秀子さんは会見で、「巌は精神的に不安定で(この日の決定を)本人は半分分かっていて、半分くらいは分からない状態」と拘禁症状が残る弟を案じた。
 一方で、高裁は袴田さんの年齢を考慮し、拘置の執行停止を認めた。秀子さんは「身柄は拘束されないと(決定に)書いていて一安心」としつつ、「良い知らせだったら、分からないまでも、みんなに『おめでとう』と言われるのを味わせたいと思っていた。いつか絶対にできると思っている」と思いを述べた。
 さらに秀子さんは「事実を調べれば分かること。これからも頑張っていく」と決意を語り、「巌には事件のことは話さない。普通にただいまと言って帰りたい」と述べた。
 決定に対し、弁護団からは厳しい言葉が相次いだ。
 西嶋勝彦弁護団長は「よもや再審開始決定が取り消されるとは。到底、承服できない」と憤った。決定の大部分が、静岡地裁の再審開始決定の根拠となったDNA型鑑定の有効性を否定するものだったとし、「世界に先駆けた鑑定手法を、既存の法医学者がよってたかって批判したものを裁判所も批判した。結論ありきの決定だ。いったい4年間何をやってきたのか」と訴え、最高裁への特別抗告を表明した。
 小川秀世弁護士は「非常に薄っぺらい論理だ」と批判。「裁判所は、偏見や思い込みで判断している。特別抗告で十分に反論すれば道は開けると確信している」と述べた。

「官設」話法に流される国民/『日本の気配』武田砂鉄著

読む人/書評『日本の気配』武田砂鉄著/9面

「官設」話法に流される国民
 昨年の流行語大賞になった「忖度(そんたく)」が、今や日本語の代表格となる勢いである。空気を読む忖度のような表現は主語が曖昧で、「記録はない、記憶にない、指示や関与はない」と否定形だけは強い断定調だ。官僚の国会答弁はその典型だが、政府は他人事(ひとごと)の間接話法で問題なしとする。
 そんな日本の空気を支配しているのは「官設」話法だと著者は言う。本書は、一見つかみどころのないこの空気を話法からあぶり出した一冊。著者の批評は、忖度をかもしだす気配を敏感にかぎ分けて、空気の発生源を突きとめる。気配の批評家の面目躍如である。
 たしかに安倍政権の話者たちがこの空気を巧(うま)くつかんでいるのは間違いない。彼らが神経を尖(とが)らせるメディアの「印象操作」「偏向報道」は好例である。基準を設定し、それに抵触すると断じたメディアを標的に恣意(しい)的な報道批判を連射して、本当に偏向しているかのような印象を国民に植えつける。事実を問う側を空気銃で撃つような話法だ。
 多用される「誠に遺憾」「誤解を招く」「その指摘は当たらない」なども、遺憾に思わせ、誤解し、指摘した側が悪いのであって、こちらに責任や非はないし、答えないという話法の例である。事実はどこにあるのかという問題は回避して、「官設」で答弁する。 一事が万事このように日本語を操作し、首相夫人が公人か私人かの定義まで閣議決定するほど、「彼らの挑戦は止まらない」のである。
 受動的だけれど居丈高、逃げ腰なのに強気。政権はこうしたセンスで世論を作り上げてきたと著者はいう。そしてむしろ問題なのは、印象や偏向といった用語のシャワーに慣らされ、紙(な)められている国民とメディアに充満する空気だという指摘は重い。政治の貧相な話法を嘆いても始まらない。それを許し、放任している私たちの言語感覚こそが問われているのだ。
 言葉を貶(おとし)めるな、言い抜けに憤怒せよ。本書のメッセージはそこにある。
 評/米田綱路(ジャーナリスト)

是枝監督「公権力と距離」 文科相の祝意辞退へ

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是枝監督「公権力と距離」  カンヌ最高賞  文科相祝意辞退へ/29面

 林芳正文部科学相は8日の記者会見で、映画「万引き家族」がカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督に「直接会って祝意を述べたい」と意向を示した。安倍晋三首相が祝意を伝えていないことを、7日の国会審議で野党側が批判していた。ただ、是枝氏は同日の自身のブログで「公権力とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないか」と、祝意を辞退する考えを示している。
 参院文教科学委員会の7日の質疑で、立憲民主党の神本美恵子氏は「首相は国際的なスポーツや文化の賞を受けた人を祝福しているが、是枝監督には祝意を示していない。好きな人しかお祝いしないのはいかがなものか」と指摘した。
 一方、是枝氏は7日のブログで、自治体などの顕彰の申し出を全て辞退していることも明らかにした。

 

<ブログコメント>ほぼ同じ文面の記事が、東京新聞WEB版には6月8日の配信として載っています。購読している東京新聞は夕刊のない全日版(朝刊のみ)なので、記事掲載が遅れたのかもしれません。

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