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黛まどかの四国歩き遍路 同行二人46

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黛まどかの四国歩き遍路 同行二人46 「おっちゃん」/6面

 伊予北条駅で電車を降り、再び歩き始めた。54番延命寺(えんめいじ/愛媛県今治市)を打ち、宿まで約35キロの道のりだ。空には雲一つなく、今日も暑くなりそうだ。
 国道をしばらく歩き、今治(いまばり)街道に入った。坂道を少し上ったところに、弘法大師を本尊とする「鎌大師」がある。リュックを置いて参拝し、休憩をとる。境内には芭蕉の百回忌に建立された芭蕉塚があった。大寳寺(だいほうじ)などこれまでも幾つか見ている。芭蕉は四国を訪れていないが、威徳を偲(しの)ぶ人々によって建てられたものだ。芭蕉崇敬は大師信仰に似ている。
 1時半、コンビニの前でおにぎりを頬張っていると、野球帽をかぶった70代くらいの男性が声を掛けてきた。「ご苦労さんやね」。そしてズボンのポケットに手を突っ込み何かを探し始めた。「おっちゃんな、今お金ないけど、これでジュースでも買って」。手に握らせてくれたのは100円と50円の硬貨だった。「使わずに御守りにします」と言うと、おっちゃんは口元を綻(ほころ)ばせた。そして私の隣に座り、身の上を語り始めた。「おっちゃんな、生まれてすぐお母さんが亡くなったんや。学校で″もらいっ子″っていじめられてな…。火葬場で長い問働いて、2300体を送ったんよ。そろそろお迎えが近いんか、最近は自分が亡くなる夢をみるんよ…」。「大変なお仕事でしたね。おっちゃんに見送られた2300人の方はお幸せですね」。私の言葉におっちゃんは、着火のボタンを押せなかった時が2度あったと涙ながらに言った。1度は小さな子供、もう1度は親友の時だった。「話を聞いてくれてありがとう。あなたの納め札をもらえませんか?」。私は初めてのお遍路で、人様に差し上げるような立派なお札ではないと説明した。するとおっちゃんは「色なんて関係ない。ご縁があったあなたのお札がええんや」と言う。私が白い収め札を渡すと、両手で受け合掌した。「大事にします」。札の色ではなく、どんな気持ちで受け取るかが重要なのだとおっちゃんに学んだ。
 道は円を描きながら経糸(たていと)のようにまっすぐに進むが、さまざまな出会いが横糸のように交わり、 一つの遍路が織り上がっていく。一期一会、二つとない私の遍路だ。
 日がだいぶ傾いてきた。路上で地図を見ていると、車が止まった。「延命寺なら、8キロ先ですよ。5時前には絶対に着かないから、車で送ってあげますよ」。時計を見ると4時5分だった。私は1時間4キロのペースで歩くので、このままでは5時までには着きそうにない。

 札所まで一本道や風薫る