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戦争とパラリンピック

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戦争とパラリンピック 塚原東吾・神戸大教授に聞く/6面

 東京五輪まで3年を切つたが、障害がある人のスポーツの祭典・パラリンピックには、アフガニスタン戦争やイラク戦争などで負傷した多くの元兵士が参加していることをご存じだろうか。共同通信の報道によると、昨年のリオデジャネイロ大会では、戦争で負傷した民間人も含め少なくとも34人。いまや切っても切れない関係になりつつある戦争とパラリンピックについて神戸大国際文化学部の塚原東吾教授(科学史)に聞いた。(聞き手・森本智之)

負傷兵の出場目立つ 米国など選手育成を制度化
 もともとパラリンピックと戦争のつながりは深い。そもそもパラリンピックは、第二次世界大戦の負傷兵のリハビリが起源だ。ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院ではリハビリにスポーツを取り入れ、1948年、下半身まひの患者が車いすで行うアーチェリーの大会が開かれた。これが始まりだ。
 その後、大会は拡充され、64年の東京五輪に合わせて開かれた大会ではじめて「パラリンピック」という言葉が使われた。この東京大会で選手宣誓をした日本の青野繁夫さんも日中戦争の負傷兵だった。
 やがて、冷戦期が続くうち先天的に障害があったり、事故などで障害を負った選手が増えていく。その一方、戦争をめぐり二つの大きな変化が起きた。
 一つは医療技術の進歩により、戦場で助かる命が増えたことだ。戦地で手足を失うような大けがをしても生還できるようになった。もう一つは、こうした帰還兵の増加により、兵士が傷つくのは体だけではないということが分かってきた。ベトナム戦争以降、21世紀のアフガン、イラク戦争でも、戦場体験のトラウマ(心的外傷)で心を病み自殺する元兵士が社会問題になった。
 こうした状況に後押しされるかのように、傷ついた元兵士を育成してパラリンピックを目指すという仕組みを欧米各国が制度化し始めたのだ。おおむね2000年代以降のことだ。各国とは、米国、英国、ドイツなど。つまり、アフガン、イラクに兵隊を送り、戦争ができる国々である。
 元兵士は、優先的にパラリンピックを目指すトレーニングやリハビリを受けられる。軍隊や国にとっては、元兵士が生きる希望を新たにし、社会復帰を後押しするという意味がある。パラリンピックの各国内組織にとっても、身体能力に優れた元兵士はメダルを狙える優秀な人材供給源になる。双方が協力し、国を挙げて元兵士をバックアップしている。最も先進的なのは米国だ。
 驚くべきことに、こうして心身の回復を果たした元兵士の中には、戦場に戻る人もいる。命を懸けて亡くなった戦友のためにも、助かった自分はもう一度戦いたいという心情だろうか。海外メディアの報道などによると、後方支援に就くケースが多いようだが、新兵教育で「もしこんなふうに傷ついても社会復帰できるんだ」という実例として紹介されることもあるという。
 あるメディアでは、「兵士への医療の目的は、もう一回戦場へ送り返すことにある」という研究者の声が紹介されていた。
 私はパラリンピックを否定するつもりはない。スポーツに限らず、ハンディキャップを負った人の社会参加は絶対に必要なことだ。
 ただ、いまのパラリンピックは戦争遂行のメカニズムに組み込まれてしまっているのが実態だ。日本ではパラリンピックは福祉問題になっているが、それだけではない。安全保障上最も重要な同盟国である米国が戦争をしていて、パラリンピックがをそれを正当化しかねない状況にある。現在の日本が平和だからといって無関係でいられる話ではない。