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ミサイル?どこさ逃げるべ/衆院選ルポ・青森

 f:id:a-tabikarasu:20171013083227j:plain 31面/2017.10.13

ミサイル?どこさ逃げるべ/衆院選ルポ・青森つがる車力地区/31面

 赤トンボが舞い、黄金色の稲穂がこうべを垂れる。遠くには初冠雪した「津軽富士」の岩木山(いわきさん)。その秋ののどかさを農家工藤巍(たかし)さん(72)の言葉が破る。
 「この田んぼの中でサ、Jアラート鳴っても、どこさ逃げるべ。ミサイル届くのに5、6分だっきゃ」。今年はやや遅れた稲刈りが衆院選と重なった。
 青森県つがる市車力(しゃりき)地区。北朝鮮の弾道ミサイルを探知する米軍の「Xバンドレーダー」が日本海そばにある。この8、9月、ミサイルは津軽海峡に近い北海道の上空を通過した。
 軍事専門家は「ここは日本の陸地の幅が狭く、ミサイルが太平洋へ抜けるのに適したコース。しかも、彼らが真っ先に狙う米軍のXバンドレーダーと三沢基地があるから」と説く。
 工藤さんは地元の町内会長。ミサイルヘの不安から避難訓練の実施を市に要望した。9月1日に実施されたが、「まだまだ不安だな」。地域は田畑や山林の間に民家が点在する。避難できるような頑丈な建物が数少ないためという。
 この訓練には小中学生も参加した。学校帰りの小学5、6年の4人組に聞くと、「9月(15日の発射時)は布団をかぶれた。訓練で、窓ガラスが割れても大丈夫と教えてもらったから」と胸を張った。
 レーダーが航空自衛隊車力分屯基地内に設置されたのは2006年。国は翌年度から見返りとなる米軍再編交付金を市に出した。その総額は昨年度までの10年間で32億円。中学生以下の医療費無料化など59の事業に使われた。
 設置当時は反対する住民もいた。今、撤去を求める声は聞こえない。近くの畑でゴボウを作る農家の羽場晃(はばあきら)さん(65)は「はじめは原発と同じ迷惑施設と思った。でも、レーダー自体に害はないから」という。
 かつて反対運動をした地元の松橋勝利(しょうり)市議(79)は、再編交付金が昨年度で終了したのを問題視する。「レーダーは今もある。代わりの補助金を求めるべきだ」と市議会で訴えた。自主財源の乏しさから「レーダー頼み」なのが現実だ。
 今回の衆院選安倍晋三首相は北朝鮮の脅威を強調し、「国難突破解散」と名付けた。町内会長の工藤さんはずっと自民党の支持者だが、苦り切って言う。「国難? 悪くしたのは安倍さんだっきゃ。米国と北朝鮮のけんかに口出ししすぎれば、逆にやられるべ」
 稲刈り後の田で農家の工藤みちよさん(68)も、「コンクリートの水路に隠れるぐらいしかできない。国民に身を守れという前に、選挙より国会で北朝鮮対応を論議してほしかった」と嘆く。
 地元は区割り変更で青森4区から3区になった。7月に現職が急死し、弟が同じ自民から出馬した。最近、羽場さんは候補の演説を聞きに行ったが、ミサイル関連の話は出なかったと言う。「今回は弔い合戦。ミサイルうんぬんは地元では争点にならない。おれら農家だから、来年からの減反廃止のほうがよっぽど心配だ」(辻渕智之)

Xバンドレーダー
 国内に2基ある。2006年に青森県つがる市車力地区、14年に京都府京丹後市の経ケ岬に設置。米軍の移動式早期警戒レーダーで日本海一帯、主に北朝鮮からの弾道ミサイル発射を探知、追尾する。名は使用する周波数帯「Xバンド」から。