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林野庁が「森を無くす?」「皆伐」に新規補助金

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こちら特報部林野庁が「森を無くす?」「皆伐」に新規補助金/26面

 林野庁は2018年度から、森林を丸ごと伐採する「皆伐」を含む作業に補助金を出す新規事業を始める。従来、「健全な森の育成」を目的に、間伐にしか補助金は出なかったが、この事業で林業の成長産業化を目指す。同庁は「あくまでも再造林とセット」と説明するが、皆伐した森林は一時「はげ山」となり、周辺環境に重大な影響を与えかねない。木材を燃料とする発電需要の高まりなどを背景に、全国で盗伐が頻発している今、この事業は「はげ山を増やしかねない」と懸念の声が出ている。(佐藤大、白名正和)

盗伐 全国で被害
 「最初、『ここは自分たちの森ではない』と思った」。「宮崎県盗伐被害者の会」会長の自営業海老原裕美さん(60)=千葉市=は、あらわになった山肌を目にした時の衝撃を振り返る。
 海老原さんの故郷は宮崎市。両親は、海老原さんが生まれた60年前、記念に約2000平方メートルの山林を購入し、300本ほどのスギを植えた。しかし、一昨年8月、母明美さん(82)と一緒に墓参りに行った帰りに立ち寄ると、スギの木が根こそぎなくなっていた。
 海老原さんは県外の高校に進学したため、中学生以来、そこを訪れたことはなかった。場所を勘違いしているのではないか、と明美さんに聞いたが「間違いない」という。翌日、法務局で確認し、盗伐被害に遭ったと分かった。明美さんは「山がなくなった」とショックにうちひしがれた。
 以前、友人から「木材を燃料にする木質バイオマス発電が広がり、スギの値段が高くなっている」との話を聞いたが、まさか他人の山林を勝手に伐採するとは信じられなかった。
 翌月、伐採の窓口である宮崎市に情報公開請求すると、「伐採届」の届け出人の欄には実在する鹿児島県の業者の名があり、2000年に病死した父親の名前で署名、押印されていた。伐採した木材の流通に必要な「適合通知書」も届いていなかった。
 同市の対応を追及すると言い訳ばかり。警察でも示談を勧められ、なかなか被害届を受理しない。
 人づてに聞くと、宮崎県内で次々と盗伐の被害が明らかに。昨年9月、「被害者の会」を結成すると、33家族が集まった。中にはスギ1300本の被害に遭った人や、わずかな補償金で泣き寝入りを余儀なくされている人もいた。他の被害者の盗伐現場を訪ねてみて、狙われるのは人目につかない場所と分かった。海老原さんは「見つかっても業者は境界線を間違えた『誤伐』と弁解するだけ。好き放題に伐採するから、刈られた山林は治水能力もなくなっており、再植林もできない」と嘆く。
 違法伐採は今、全国で頻発している。北海道のニセコ積丹小樽海岸国定公園と周辺では昨年、地熱発電の調査名目でハイマツなど約3000本が無許可で伐採された。静岡、兵庫、福島、山梨、三重の各県でも同様の被害が起きている。
 海老原さんの山林に関連し、林業仲介業の男女二人が昨年10月、有印私文書偽造・同行使と森林法違反の疑いで逮捕されたが、起訴されたのは別の盗伐事案だった。海老原さんは「表面化した被害は氷山の一角。盗伐の全容解明には程遠い」と強調する。
 宮崎県はスギ生産量26年連続全国1位を誇る。海老原さんは、その林業県で盗伐が放置されてきたことに憤り、林野行政に批判の目を向ける。「木質バイオマス発電に、盗伐された違法木材は混ざっていないのか。補助金で成り立っている今の林業は、適正に行われていると言えるのか」

背景にバイオマス需要拡大
 林野庁は、2018年度当初予算で「林業成長産業化総合対策」に計約230億円を盛り込んだ。
 対策の中に、新規事業の「資源高度利用型施業」がある。木を主伐(=皆伐)し、山の下へ運び、もとの場所に木を植えて再造林する。この一連の作業に対し、事業費の半額分を都道府県を通して補助する。
 林業では、木の成長を促すための間伐など、森づくりという公益的機能を保持する観点で、補助をしてきた。今回は皆伐という経済行為を補助の対象にした点で、従来とは一線を画す。
 林野庁の担当者は「戦後の人工林が樹齢50年を迎え、材木として本格的に利用する時期が来ている」と説明する一方、「あくまで材木の搬出と再造林に対する補助で、主伐への補助ではない」と強調する。
 が、搬出も再造林も皆伐がなくてはできない。事実上は皆伐への補助金なのではないか。そう問うと「確かに集材は主伐がないとできないが…」と濁した。
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バイオマスに使う木材は「未利用材」で、林野庁ガイドラインでは「伐採されながら利用されずに林地に放置されている未利用間伐材や主伐残材といったもの」という定義となっている。
 「この定義があいまいでなし崩し的に未利用材の意味が広がった」と、一般社団法人「日本木質バイオマスエネルギー協会」顧間の熊崎実氏は話す。
 12年に木質バイオマス発電を含む再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる際、山林での間伐材の放置が問題だった。そのため間伐材を含む未利用材由来の買い取り価格は、1キロワット時あたり32円とほかの木材よりも高く設定された。
 「すると、放置された間伐材がなくなった後も、価格が高いため、山から下ろした木材を一律に未利用材とみなすケースが出てくるようになった」。皆伐では、建築資材向けの高品質の木材も切り出されるが、同じ道をたどる恐れはある。
 一連の事業の背景には、25年までに木材の国内自給率を50%まで引き上げるという林野庁の思惑も見え隠れする。16年時点では34.8%だが、この新規事業などで国産材の供給・利用量を25年に4000万立方メートルまで伸ばせば達成できる計算だ。しかし、国土を支える森林政策が、数値目標で左右されていいのか。
 森林ジャーナリストの田中淳夫氏は「林野庁自給率に目を向けているが、大切なのは将来に向けて森林を守り、育てること。その視点が欠けていないか」と指摘する。
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デスクメモ 盗伐は欲得ずくの国土破壊である。一方、林野庁の新事業も題目は立派だが、目先のカネ目当ての国土破壊につながらないか。環境に優しいとされる木質バイオマス発電だが、自然災害が多発するこの国で、はげ山を増やしてまで推進すべきなのか。森林政策をめぐる論点は多い。(典)