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連載/この道43 「直感精読」 加藤一二三

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連載/この道43 「直感精読」 加藤一二三(ひふみ)/5面

 我々の世界の勝負の面白さの一つは、お互いに自分の指す将棋に自信を持っていることから生まれる、と思っている。
 棋王位を獲得した翌年度、 1977年秋から78年にかけて中原誠10段に再挑戦した第16期10段戦。勝負を決めた第6、第7局は、まさに自信を持った同士の戦いになり、印象に残っている。
 7番勝負は5局を終えて2勝3敗と負け越し、追い込まれて東京・千駄ケ谷将棋会館での第6局を迎えた。
 私の先手番で始まったこの局は相矢倉の戦いで、40手目まで、私が先手で完敗した第2局と全く同じ手順を辿(たど)った。
 中原さんは、「第2局は、何の問題もなく勝った」と思っていたはずだ。だから先手の私が、同一局面に誘導してもかわさない。しかし私の方は、この対局までの1カ月半の間に負けた将棋を研究し、途中で的確に指せれば面白いと思って臨んでいた。
 40手目、中原さんの6四歩に対して41手目、第2局で私は、7六銀と指した。しかしこの局では6六銀と上がる位置を変えた。このわずかな違いから、その後の指し手はまるで違ったものになり、2日目を迎えた。
 昼食休憩を前に、中原さんが3五歩とした際、ある手がひらめいた。7三歩成と攻める手順だった。続けて読むと私の角が取られ、不利になると思った。しかし直感は「何かある」と告げている。昼食休憩の際に近くの聖イグナチオ教会のミサにも与(あずか)り、約4時間考えた結果、角を渡しても自分の玉は意外に安泰で、大局的に見て面白いと判断、駒損を受け入れる高等戦術を取った。
 「直感精読」。私が色紙によく書く言葉である。直感でひらめいた手は95%正しいと私は思っている。しかし指すには、その手を精読して確信を持って指さなければならない。このときは自信を持って7三歩成とし、勝ちきった。
 敗戦局を研究し、対応策を用意して同一局面を打開、勝負どころでは直感の手を4時間かけて精読して指した。私のベストテンに入る将棋の一つである。

 

<ブログコメント>東京新聞の連載シリーズ。昨年は俳人黛まどかさんや中学生棋士藤井聡太4段(現在は6段)が登場しました。今年は藤井4段との対局や引退後の芸能活動で話題を呼んでいる加藤一二三9段。「この道」の連載もすでに43回。将棋には全くの素人ですが、プロ棋士とは、こんなにも集中して考え続けられるものなのか。盤上では互いの自信と自信がぶつかりあうから白熱の対局となる。そして数十年前の手を正確に覚えている棋士の記憶力。・・・恐れ入谷の鬼子母神