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「カウンターデモクラシー」考 山本達也氏

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こちら情報部「カウンターデモクラシー」考 清泉女子大教授 山本達也氏/24・25面

 財務省の公文書改ざん問題などの全容解明を求める国民の声をよそに、閣僚や官僚は国会で、野党の質問にまともに答えない。他方、地検も改ざんを指示した元幹部らを不起訴とした。代議制、捜査機関にとどまらず、不正を正すためのあらゆる民主主義的な制度が機能不全に陥ったかのようだ。国民の政治不信も頂点に達している今、「不信」を通じて民主主義を補完しようという「カウンターデモクラシー」が世界的に注目を集めている。日本は健全な民主主義を取り戻せるのか。この思想に詳しい清泉女子大学の山本達也教授に聞いた。 (白名正和)

民主主義を取り戻すには? 
 「日本が民主主義国であることは間違いない。問題は中身が機能しているかどうか。民主主義は日本も含めて世界的に、後退局面に差しかかっている可能性がある」。山本氏は民主主義の現状をこう分析する。
 非民主主義の状態から民主主義に移行し、定着した後、民主主義を維持したまま質的な変容を遂げる―。これが政治学の想定だったという。
 しかし現在は、「民主主義が定着した後に脱定着、後退というベクトルに進んでいるかに見える」。事実、米国では非民主的な言動や経済政策を是とするトランプ大統領が就任。イタリアでは今月、ポピュリズム大衆迎合)的な2政党による連立政権が発足した。
 先進国では若い世代ほど民主主義に価値をおかず、生活できるなら民主主義じゃなくても良いと考えている、との調査結果もあるという。「想定外の動きを、多くの政治学者が驚きを持って捉えている」
 日本も例外ではない。今の安倍政権は連続在職日数が歴代3位で、戦後最長も現実味を帯びる。だが、政策の中核アベノミクスは多数の問題点が指摘されている通り、とても持続可能性があるとは思えず、出口戦略も見えない。さらに森友問題も、関係者の甘い処分にとどまった。山本氏は財務省の文書改ざんに目をつぶったら民主主義のたがが外れる」と警告する。
 しかし、安倍政権は民主主義的プロセスによって退場させられるどころか、一定の支持を保っている。共同通信社が5月に実施した世論調査では、内閣支持率は38.9%で前月から1.9ポイント回復した。支持の理由は「ほかに適当な人がいない」が最多の42%だ。
 問題山積の政府が支持されるのはなぜか。山本氏は「日本のシステムの破綻(はたん)を直視せず先延ばししたい、国民の願望がある」と指摘する。

問題山積  政府なぜ支持 「破綻先送りの願望」
 現実は、年金や社会保障など、国民の生活を支えてきた制度は少子高齢化人口減社会の中で危機に瀕(ひん)している。人生の展望が描きにくい非正規労働も拡大しつつある。「国民はそのことに気づいているが、認めたくないから、先延ばししてくれる人を選ぶ。政府が抱える諸問題はもちろんおかしいけど、それ以上に破綻を先送りしたい。ほかの首相を選んで現実を直視するよりも、消去法で現政権を消極的に支持している」
 また今、民主主義が機能不全となる背景には、地球上の限られた資源で、持続的な経済成長が限界を迎えていることも大きいという。山本氏が取り組む「縮小社会」という問題だ。
 「高度経済成長期のように、右肩上がりに伸びる社会で民主主義を運用するのは楽。分配するパイはどんどん多くなるからその分配加減を見れば良かった」
 現在のように縮小していく社会では、分配の決定は極めて困難になる。「そもそも近代以降、右肩下がりの世界で民主主義を運用した社会は、歴史を見ても一度もない。それが今、僕らの世界で起きている」
 <略>


 やまもと・たつや/1975年生まれ。慶応大大学院政策・メディア研究科後期博士課程を修了。清泉女子大教授。専門は政治学NPO法人「もったいない学会」の理事も務める。著書に「革命と騒乱のエジプト」「暮らしと世界のリデザイン」、共著に「日本政治とカウンター・デモクラシー」など。