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科研費を巡る「反日」騒動 海部宣男

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科研費を巡る「反日」騒動/海部宣男/6面

保証されるべき政権批判/民主主義の基本
 「科学研究費補助金科研費)」というといかめしく聞こえるが、文部科学省の責任下にある「日本学術振興会」が、基礎科学、応用科学、人文社会科学のすべての研究分野で募集し、審査・配分する研究費のことだ。総額は年に2000億円超だが研究者は数十万人もいるから、獲得競争は数倍という厳しい門だ。
 科研費を巡ってここしばらく、ネット上で「反日」だの「ネトウヨ」だのとののしり合う騒ぎになっている。分断は、科学研究にまで及んでいるのか。まずは、そのいきさつをざっと見よう。
 大きなきっかけは今年2月、自民党杉田水脈議員の国会質問だった。産経新聞の記事を配布して、日本によるアジア諸国の植民地支配に関した研究をしている研究者を名指し。講演や論文で反日的主張や研究成果を世界に向けて発表するような研究者に多額の研究費が出ているのは「非常に由々しき問題だと思う」がどうか、科研費の偏向ではないかと文部科学大臣にただした。
 対する林芳正文部科学相の答えは、科研費の審査は複数の審査委員で複数段階にわたる審査を行っていて「研究課題の採択自体は公正に行われている」「評価能力を十分に持っている研究者によって構成される審査組織が、個々の研究の学術的価値を厳正に評価して採択課題を選定する」というもの。これは、私たち研究者の実感に合っている。もちろん会計書類は保存され、審査委員も公開されている。
 しかし杉田議員は、ネットやテレビや新聞でさらなる「反日研究者」攻撃をくり返した。
 <略>
 私がこの問題を取り上げたのは「反日研究者に税金を使うな」という主張には、見過ごせない本質的問題があると考えるからである。学問の自由が大事なのはもちろんだし多くの誤解もあるが今はそれには触れない。ここで言いたいのは、言い古されたことだが「政権は国そのものではない」ということだ。
 「国」は、国民全体のもの、民意で運営してゆくものである。時々の「政権」は、一時のものにすぎない。だから、政権が進める政策を非難するのは「反日」ではない。もしそうなら、野党やそれを支持する国民はすべて「反日」になる。
 さらに、政権を批判する「反日」研究者に研究費を出すなという人々は、もし政権が野党に回ったら、同じことを言うのだろうか。それを言わずに政権批判にまわるなら、自分たちが「反日」になるではないか。
 そもそも、政権の批判が保障され民意による政権交代が可能なことが、民主主義社会の基本要件だ。民主主義を掲げる以上、時の政権を「国」と同一視することは決してできない。また、政権に批判的だからといって「反日」とは決して呼べない。それをあえてするなら、当事者たちが敵視する独裁的な中国や北朝鮮と同じになるだろう。このことを「反日」を叫び「反日研究者」を非難する人々には、よく考えてもらいたい。
 <略>
(かいふ・のりお/国立天文台名誉教授)