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狙われる農産物コピー 和牛受精卵 中国へ流出未遂

 f:id:a-tabikarasu:20181129065730j:plain 1面/2018.11.27

狙われる農産物コピー 和牛受精卵 中国へ流出未遂/26面

 世界的においしいと人気の和牛。今年7月、その受精卵を日本から中国に持ち出した男性が、農林水産省動物検疫所によって受精卵を没収されていたことが分かった。中国の税関を通過できず事件は未遂に終わったが、イチゴのように日本のブランド農産物が海外でコピーされるケースが相次いでおり、和牛もその一環として狙われているのだという。(大村歩)

 動物検疫所の福田史乃危機管理課長によると、和牛の受精卵を持ち出したのは、自称大阪府内の男性。帰国した際、税関に「動物検疫所に申告するものがある」と申し出たため、検疫所が調べたところ、液体窒素のボンべ内に、ストロー状容器に入った和牛の冷凍受精卵数百本を見つけた。
 男性は「知人に頼まれ中国に受精卵を持ち込もうとしたが、現地の税関を通過できなかったため持ち帰ってきた。違法とは知らなかった」と述べたという。
 家畜伝染病予防法では、和牛の精液や受精卵は、海外への持ち出しも持ち込みも検疫が必要で、輸出はできない。いったん中国へ持ち出した男性の行為は違法だ。しかし、動物検疫所では「警察にも相談したが、持ち帰った際の申告で発覚した事例で、悪質性が立証できない。刑事告発せず、受精卵をその場で廃棄させる措置にとどめた」 (福田課長)という。
 農水省が和牛の受精卵や精子に神経をとがらせるのにはわけがある。実は、1990年代に米国に輸出された生体の和牛の遺伝子がオーストラリアに渡った。豪州産「WAGYU」として大量に生産されており、EU欧州連合)やアジアでは、本家の和牛より広く一般に流通しているからだ。 「攻めの農政改革」(安倍晋三首相)を掲げ、農林水産物・食品の輸出額を1兆円とすることを目標に掲げる政府としては、「WAGYU」を駆逐して本家による巻き返しを図りたい考えだ。
 とはいえ、今回のケースには現場から厳しい声が上がる。和牛の精子や受精卵を扱う大渕牧場和牛人工授精所(群馬県沼田市)の大渕一氏は「持ち出したのは明らかに確信犯だと思う。どう持ち出したのか徹底的に調べてほしい」と話す。
 大渕氏によれば、現地の牛と交配させる精子の持ち出しと異なり、受精卵から生まれる牛はより日本産の和牛と近い。「持ち出しは事実上の生体輸出と変わらない」。実際、持ち出しをもくろむブローカー的な業者から商談を持ち掛けられることもあるというが、「この業界で仕事ができなくなるからやらない」という。ただ、そうしたヤミ業者は実在するという。「1回持ち出しに成功すれば日本の10倍、7、80万円になり、暴力団が関与しているとも聞く。今回は氷山の一角ではないか」と話す。
 近年では、日本の農産物技術や品種の海外流出が騒がれるケースが増えている。今年2月の平昌五輪でカーリングの日本代表選手らが「もぐもぐタイム」で食べた韓国産イチゴが、実はもとは静岡などのブランドイチゴだったと判明したのも記憶に新しい。日本ブランドを守るため、もっと水際対策をしっかりすべきか。
 農業ジャーナリストの大野和興氏は「確かに品種改良やブランド確立に励んでいる現場にとっては困ることだろう。ただ、いい品種や種子というのは世界に伝播していくもの。国境線はないし、水際で止めるとか知的財産権で守るというのも限界がある」と指摘。その上でこう語った。
 「ブランド農産物路線を進めていくと将来、日本人が買えないほど高価な農産物ばかりになるかもしれない。本末転倒にならないように、対外的な攻め一辺倒ではなく、庶民がふだん食べる農産物をどうするかの視点で、農政を転換すべきではないか」